喜寿の戒め | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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喜寿の戒め

いや~ぁ!喜寿になって部屋かたしなんかやるもんじゃありませんね!

いつか、こんな日が来るとは思っていましたが、来てみると大変です。今のマンションに引っ越して11年か12年経つでしょうか、その前は、小さくても一軒家だったんですが、子供たちが独立して老人ふたり、広い部屋などいりません!一軒家に住んだ後に、4年間だけ敷金と礼金が0の聖路加病院近くのレンタルマンションに引っ越しして、いずれ終の棲家になるマンションを探していました。海の近くで安全な場所を探していたのです。そこに移る時にだいぶ捨てて来たのです。借りたマンションは、広めで部屋の中に倉庫があったのです。

今のマンションは、石川島播磨重工業の船のドックの跡地ですから地盤は安心ですし、そのIHIの社長も住んでいると聞いて益々安心、ただ人気があったので抽選でした。それも倍率が高いのです。2年が過ぎて、少し値は上がりましたが、まだ周りは空き地で草が茫々と生えていましたから、まぁびっくりするほどの値上がりではなかったのです。小さな家を売っても少し借金をしなければなりませんでした。私が65歳の時だったでしょうか。もう年寄りには銀行は見向きもしてくれませんでした。長い間会社勤めをしてきました。会社に出入りする銀行がありましたが、どこも年寄の頼みなぞ聴いてくれません。知り合いの不動産屋さんに頼んでいました。その人が考えついたのが、地方銀行です。以前私と同じような人が困った時に、その手を得たらしいのです。

私の祖父は、その地では有名な人でした。祖父の郷里の地方銀行は、すぐに“貸す”という返事をくれたのです。ただし、75歳までという期限は付いていました。75歳は、健康平均寿命です。それに、後期高齢者です。その10年、借金を返すのは大変でした。もっと早くマンションを買っておけばよかったと、後悔したほどです。そのマンションが今のマンションです。去年からマンションブームが到来したみたいですね。投機をしてる人は別でしょうが、住んでいる身は上がらないほうがいいのです。上がると、その分も税金で取られてしまいますからね。

草茫々の空き地には、雨後の筍のようにオフィスビルが建ち並び、建築中の1部を除き町としてほとんど完成したのです。部屋は、最上階を除けば皆同じような広さですし、選ぶなぞ贅沢で空いて手に入っただけでラッキーです。マンションには、コンセプトがありました。あまり使わない客間などは、共有設備としてラウンジがありますし、お客がきても喫茶店があります。個人の無駄を省いて、それでもたまに必要が生じるものは、共有しようというコンセプトです。

だから、部屋は狭いのです。私の部屋は、10年以上前に買った洋服まで取り揃えてあるのです。新しく買えば、古い洋服の上にかける。何が出てくるか、今や判りませんが、ある日、私の寝ている上に倒れこんできたのです。もがきました!洋服で真っ暗でした。
海で溺れて亡くなった方がいれば、お判りになると思います。左右上下判らず、足が白虎に噛まれた状態です。戸に行けず、やっと届いた窓に摑まり身を引きはい出ました。77歳の老人ですよ!クーラーのリモコンもどこかにあるでしょうが、暑いのです!