訃報| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 369

訃報

今、パソコンの電源を入れて開くと、以前の勤務先文藝春秋の総務部から社友の私宛に訃報の知らせが届いていた。

私は、赤坂のオフィスに、毎日は通って来ない。情け深い社主が、年老いた私の居場所をこの赤坂の1当地にデスクと共にパソコンまで用意してくれている。自宅にあったパソコンは年代モノと社主は知っているので、新たなWindowsまでパソコン内に用意し、私の私的メールアドレスまで使えるようにしてくれた。

私は、健康寿命の年齢になる。キーボードは、叩けるがパソコンを使えるのは、メール受送信と調べものの検索と原稿を書くことだけである。出来た原稿を受信した方やカラメールに添付することと、添付されたメッセージをプリントすることは出来る。逆に言えば、パソコンの能力のこの部分しか使えないでいる。

あっ、まだ出来ることがあった。コロナ禍で多くの会議がリモートになり、先方から送られてくるZoomとか言うアドレスを押すと、摩訶不思議に多くの方と自分の机の上で会議が出来るのを知った。日本P.E.N.倶楽部の会議をリモートですることとなった初めての時に、何が何だか判らずに、やっと入れた時には、会長の吉川忍さんの「今日は、皆さんご苦労様でした!次もこの調子では、リモートになると思いますので宜しくお願いします」との声と姿が映った。瞬間「お疲れさま」との声と共に画面に映っていたそれぞれの顔が消えていったのだ。簡単に言えば、やっと参加出来た時は、もう終わった時だった。

それからは、会議に入る1時間前から悪戦苦闘することになった。倶楽部ハウスに行ってリアルな会議をした方がよほど効率がいい。オフィスに毎日通わないのにはわけがある。老人は、邪魔な時がある。週に2回か3回ならば我慢も出来ようが、毎日来られてもたまったものじゃない。

私が、逆の立場なら「嫌」である。自分で「嫌な事」をひとに強いるのも嫌だ。私は、赤坂に9時過ぎには、着いてしまう。老人が朝から来られるのも嫌だろうから11時過ぎまでオフィスの傍の喫茶店にいる。2時間近くいられたらその喫茶店も「嫌」だろうが、構うこっちゃない!毎日は、家にいれば嫌われる。

よく考えれば、長く生きるのは、罪悪かも知れない。東京オリ・パラ競技大会組織委員の会長の森さんみたいに「潔くないひと」には、なりたくない。また、森さんの言う言葉に腹も立つ。「私が、老害でしたら」の部分だ!老人差別問題である。女性差別問題から身を守るために老人差別をする「差別の人」には、「潔く」なって欲しい。

残りの週の2日、3日はドラムのひとりレッスンにあてている。最近、「ドラムを教えてくれろ!」という奇特な人がいるので、教えている。話がそれた!

社友宛の訃報には、私が新入社員の時に大人になる全てを教えてくれた恩人、当時の部長さんが先月の末に亡くなったこと、葬儀は家族葬で行われたこと、が書いてある。半藤一利さんの時もそうだった。この冬、私の先輩たちが毎週ひとり亡くなった知らせが届く。皆、後からの報で、家族葬!嫌いな先輩は、それでいいが、世話になった方には、何か意を伝えたい!弔電を打った!間の抜けた弔電であるが、仕方がない!