先週に続き「映画は大映」 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 282

先週に続き「映画は大映」

大形連休の少し前の日曜日、『大映合同OB会』に出席した。元大映の社員、大映を受け継いだ元徳間映画の社員、そしてその志を受け継いだKADOKAWA映画の社員、女優・俳優さんたちを含めて総勢80名以上が集まった。

私の席は、舞台に向かって1番前の中央。結婚式だったら「寿」のテーブルである。高い席すぎると、私は思ったが、大映の初代社長が私の祖父・菊池寛だから名代と思えば仕方が無い。知り合いは少ない。集合写真を撮ってからは、なんとはなしに場がうちとけてきた。ふたつ隣の席に女優さんたちがかたまって昔話に花を咲かせているようだ。私の席は、関係会社の社長さんばかりで堅苦しい。元大映の総務のひとや秘書課のひとと、しばらく遊んだ私は、女優さんの集まる中に大ファンだった叶順子さんを見つけた。エイヤー!と、勇気を振り絞って叶さんに近づいた。

叶さんは、若い時に佐久間良子似のポッチャリ顔の知的な女優だった。私の映画好きは知られていたから、よく「俳優で誰が好き?」と聞かれることが多い。答えは常に「外国人は、ヘップバーン。日本人は、叶順子」と答えた。皆きょとんとする。「叶順子?」知らないのだ。彼女の女優人生は、6年と短い。撮影所の強いライトで目をやられ、失明の恐れがあるとして引退したという噂を聞いた。会いたかった!でも会えるとは、思わなかった。今83歳くらいだろうか。
私が11歳のころ『朝の口笛』でデビューした。島耕二監督の『細雪』にも出演した。『暖流』『日蓮と蒙古大襲来』『痴人の愛』『女の勲章』。満を持して大映が巨額を投じた『釈迦』。『黒蜥蜴』『黒の試走車』『女の一生』と大作に次々と出演した。そして、1963年の『風速七十五米』が最後となった。
彼女は、東京中野区の野方で生まれている。私もたまたま20年も野方で暮らしたことがあった。彼女は、私に手を差し伸べてきた。私は、両手で彼女の手を握った。私も73歳である。一生このひとのファンでいるつもりだ。

隣の席に、女優で歌手の渚ゆう子さんが座っていた。27歳年上の作詩家・作曲家浜口庫之助さんと結婚した。浜口庫之助さんには、私が若い時に可愛がって頂いたが、奥様には会っていなかった。もしかして、結婚前かも知れない。渚ゆう子さんは『東京おにぎり娘』でデビュー。1961年に島耕二監督の『夕やけ小やけの赤とんぼ』で主演デビューをした。ヤクザ映画や時代劇、青春映画と多才な女優さん。『座頭市』『兵隊ヤクザ』『眠狂四郎』『奥様は18歳』『仁義なき戦い』と名作に出ている。テレビドラマでは、TBSの『おねえさん』『ザ・ガードマン』、『キーハンター』『時間ですよ』『木枯紋次郎』『必殺仕掛人』『鬼平犯科帳』に出演している。「鬼平」の池波正太郎氏、「紋次郎」の笹沢佐保氏は、私が担当者だった。「あら、浜口があなたの前でギターを弾いて歌ったの、めずらしい!」私の手を握りながら渚ゆう子さんが言った。

 

*追伸・読者の皆様へのお知らせ

私の祖父・菊池寛の著作『満鉄外史』(原書房刊)がNHKラジオ第2で全40回にわたって朗読されます。タイトルは、朗読「菊池寛~満鉄外史~」です。放送日及び再放送日、番組ホームページ(NHKラジオ第2文化番組)でも聞けます。日時を列挙いたします。お時間のある方は是非に!

放送日:6月3日(月)~7月26日(金)午前9時45分~10時の15分間
再放送:6月8日(土)~毎週土曜日 午後9時45分~11時(月~金一挙放送)
NHKラジオ第2 文化番組ホームページ:https://www4.nhk.or.jp/roudoku/