イライラのわけは? | honya.jp

閉門即是深山 3

イライラのわけは?

この3,4年、私は何かイライラが続いているような気がします。

話は、そうとう昔に跳びますが、私が生まれてまもなく私は、死ぬか生きるかの高熱が続いたらしいのです。原因は、中耳炎。耳の病です。父から聞いた話です。いまでいう主治医、私の祖父・菊池寛が信じていたお医者さまで大堀先生という方が赤坂で開業されていました。その名医が、往診までしてくださったのに、高熱は、下がらない。両親も、もうこのひとり息子の命は、ここまでかな、きっと頭の隅で考えていたのではないでしょうか。

戦争直後に産まれた私ですから、その中耳炎に効く薬などは、この日本にあろうはずがないのです。たぶん、昭和22年ころのことだったのでしょう。
そんな時、大堀先生が朗報を持ってきてくれました。進駐軍に良い薬があるらしい、と。今からたった60数年前のことですよ!
今のひとたちが聞いたら「進駐軍てなに?」っていうでしょうね。最近マッカーサー元帥を主役とした映画があるようですが、日本が敗戦して、マッカーサー率いる連合軍。主に米軍が日本に駐留していたのです。今のように沖縄だけではありません。

東京、日比谷に東宝のビルがあります。交差点の角で、日比谷公園の向かい側のビルです。今は、「タイ航空」が入っているビルですが、あれが進駐軍の本部になりました。そして、進駐軍の将校たちは、接収したホテルに駐留したのです。お堀端にあったそのホテルも現在はもうなくマンションになっていますが、そのフェアモントホテルも接収されたひとつでしたし、これももうありませんが、有名な赤坂の山王ホテルもそうでした。

その山王ホテルにいたトロッターさんという将校が、私の父に「赤ちゃんだったら、腕に注射を打ったらモギれますよ、太ももに打ちなさい」といって一袋の緑色の粉の薬をくれたそうです。水で溶いて注射器に入れて、父が打ってくれました。翌朝、私は跳ね廻って遊んでいたそうです。私の腿には、そのときの跡が今でも残っています。その薬は、ペニシリンでした。

治ったものの、私は、今でも少し耳が弱いのです。飛行機の離着陸時の耳の痛さは、他人には判らないでしょう。弱いのは、頭もです。私は、耳だけではなく鼻も咽も弱い。人間には、どこか弱いところがあるものです。私は、顔は知らず、その一帯が弱いようです。青年になり、大人になると体力もつき、弱い箇所が隠れてしまいます。

私は、4年前に白水社という出版社からご依頼を受けて『菊池寛急逝の夜』という本を書きました。書いている最中に事件が起こったのです。家族たちに取材をしている最中でした。あまりにも新しい事実、菊池家にとって秘密にしていた事実が出てきたので、全編書き直さなきゃならなくなりました。締切日は、もうまじかに迫っていました。最後まで書いたものを全て捨てるには、忍びないものがあります。

そのとき、おこりました!「鼻づまり」です。

鼻づまりで悩んでいる方は、あの辛さをお判りでしょう! 過呼吸になり、このまま息が出来ずに死ぬのではないか? そんな気持ちが何日も何日も続きました。へんな話、発狂寸前になるのです。
これも、昔話ですが、私は、ひとりッ子で、今でいう鍵ッ子でした。耳はともかく、扁桃腺が常に腫れ、鼻づまりが常時でした。そして、寝るときには、家に家族というか母も父もいません。夜は、不安と恐怖のオンパレードでした。中学生になったころから、忘れたようにケロっと治ってしまって、いままできました。が、あの嫌な時代が戻ってきたのです。きっと、私の加齢がそうさせたのでしょう。

耳鼻科に通うようになりましたが「ちょっと腫れていますね!」といわれ、薬を貰うばかりです。あまり効く感じもしません。それに、イライラがつのってきます。イライラで、家人にも当たり散らすようになりました。困ったものです。ある日、大きな薬局に行ってみました。漢方薬の品揃えのいい薬局です。細かい字を老眼鏡を出して読んでいるとあることに気がつきました。それは、キーワードとして「鼻づまり」、「イライラ」を探していたことです。
漢方薬の箱の表に「イライラを抑える」と書いてありました。そして、小さな字で「高血圧のひと」「更年期障害のひと」と書いてあるではありませんか。

私は「鼻づまり」で、イライラしているとばかり思っていましたが、もしかしたら、何か他の原因で、イライラが始まって、それで「鼻づまり」になっているのでは? ちょっと考え方を変えてみたのです。前回も書きましたが、私は、何年か前に高血圧症と診断を受けて、薬を呑み始めています。それに、男性ですが、更年期になっていたっていい年齢です。この物語は、少々長くなりますので、この続きは、来週このブログで書きましょう。

ねっ、T某、次号で続きを書かせてくれる? なんだよ、むくれることないだろ! えっ、つまんない話を続けるのかって?いや、なんとか面白くするからさぁ!