呆けほど怖いモノは無い! | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 446

呆けほど怖いモノは無い!

私は、週に何日か赤坂にあるオフィスに通っている。首には、家に入るカードやポンタのポイントカード、ほとんど金額が0に近いPASMOカード、東急ハンズのポイントカードやどこのカードか忘れてしまったカードたちを入れてあるカードケースをぶら下げ、少し大事だろうと思う物をポシェットに入れ肩から斜め掛けにしている。その斜め掛けのベルトには、100均で買ったアルコール消毒液、Suicaや都バス・シルバーパスなどが入ったボッテガのカードケースの紐が巻き付き、夏なのに手袋を挟んでおく革製のベルトまでもだらしなく巻き付いている。私のことをちょっと見た人は、屋久島にある蔓に巻かれた杉の古木が東京のド真ん中に立っている、いや、歩き始めた!と、驚かれるかも知れない。

それに仕事らしいことをやる日は、それ用のトートバッグを、また、週2回ドラムの自己練習をする時は、スティックを10組だの楽譜を入れたバインダーやドラムを調整するネジだの、とにかく中身を片付けないものだから、今使わない楽譜入れまで入れて、もちろん折り畳み傘や延長コード、どこに自分が巻きたかっただろうか、わからなくなったスポーツ用の肌色の布テープや関節痛の塗る痛み止め、合わせて2~3キログラムを担ぐ。

赤坂の仕事場までは、都バスを使っている。70歳になればシルバーパスは、年間2万円強で、何べんでも乗れる。家人は年間千円である。地下鉄では200円位だろうがバスだと乗り換えるから420円かかるが、パス買ったんだもの~ぅと使う。家の前から終点新橋行のバスに乗る。

その日は、家人からプレゼントを渡すように頼まれた。あれだけの物を体に巻き付け、もうひとつ割れ物を入れた紙袋を渡された。バスは、混む時間帯を避けて乗るから座れる。もし座れない時は奥の手を使う。優先席である。まっ黒の帽子を脱げば、白髪頭に禿が載った如何にも萎れた老人になる。バスの揺れに合わせて私も揺れる。大体、妊婦さんや、赤十字のような赤に白い十字のカードをぶら下げた人、怪我をしている人、及び白髪に禿のグラデーションを持つ人のためにある席なのに、健常も健常それも人生で一番健常期の客がスマホで日経新聞でも読んでいる振りをしてゲームに興じている。その前に立てば、席をゲット出来る。

その日は、築地、勝どき橋、銀座四丁目までは起きていた。終点まで後2駅の所で熟睡してしまった。見れば新橋駅前、たった2人の中の1人の乗客が降りている。慌てた!飛び降りた!そして、バスの姿が消えた後、トートを席に置いてきたのに気が付いた。いつも膝の上にトートを載せるのだが、割れ物の袋が膝上にあり、初めてトートを席の脇に置いた自分が悪かった!車庫でトートに再びめぐり合えた。署名をしている時に係が「何かわからないものがいっぱい」と言った。いいんだよ!これは腕を鍛えるダンベルなのだから!

そして、その翌日事件が起こった!愛用しているグリーンのペンケースに入った電子タバコが消えてしまったのだ!竹串と小さなピンセットと共に!どなたか拾った方はお知らせ頂きたい!それよりも呆けが怖い!防止のためにドラムまで再開したというのに…!