長期休暇 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 431

長期休暇

私がドラムの自己練習のために通っているスタジオが、都の西北の早稲田大学正門の通り山吹町にある。私は、たった一人で使わせて頂いているのでコロナ禍でも通っていた。このスタジオは季刊誌『Big Band』という軽音楽専門雑誌を創る編集部が、楽器などの撮影や、東京でも数少ない大勢が演奏するビッグバンドのために作られた個人のスタジオで、スタジオだけで20坪くらいあるだろうか。ただし、スタジオは1つだけで、町々によくある音楽用のスタジオとは違う。町々にあるスタジオは、5名から10名が入ればいっぱいになるようなスタジオ、大小が幾つもの部屋がありその各々の部屋にドラムやピアノ或いはキーボードやアンプ類、そして歌う人のためのミキサーなどがある。そして、1部屋1時間幾らと値段が設定されている。私が通うスタジオは、たった1つ。薄い壁を隔てて季刊誌の編集部がある。上記したように大勢で演奏できるスタジオは少ない。私の想像だが、雑誌を創っているうちにビッグバンドの人たちからその悩みを聞いたオーナーが、このデカいスタジオを造ったに違いない。

私は、知り合いを通してここを紹介してもらった。1時間ひとり幾らの商売だから大勢入らないと電気代にもならないと思う。そこで私は、大勢の人たちがなかなか集まらない時間帯、平日の朝11時から午後の2時まで週に2度借りることにした。平日20名の人を昼間集めるのは困難だから、その間は空いているだろうと思ったのだ。的中した。ただ、プロのバンドが音合わせに使う時は、1日中貸し切りするのが常だし、春休みや大型連休、夏休みなどは、学校や学生が朝から晩まで使うことがあるので、もし、大人数のオファーがある場合は、私が日や時間帯を移すという約束をしている。
週に2回3時間自己の練習を楽しむ私が、小遣いでも払える金額にしてもらえるスタジオは、鉄の下駄を履いて日本中探してもこんな特別扱いをしてくれるスタジオはないと思うから辞められると困る。せめて私の手足が動く間は、ひとりでも使わせて欲しい。だから大切なのだ。大勢で使ってもらうのに協力しなければいけない。

私は、向こう4ヵ月ぐらいは、週2回3時間の予約を入れておく。安心のためだ。もちろん、たま~に「申し訳ないけど、この日に大きなバンドが入っちゃったけど別の日にしてくれない?」と、オーナーから電話がある時がある。私は「いいですよ~ぅ、じゃ前日の同じ時間で」と返すことにしている。老人は、時間が束縛されていないし、自由、暇、だからこんな時は都合がいい!ここは、プロたちも来る。特にコロナ禍で、仕事ができないプロたちは、いつでも始められる用意のために練習を怠らない。テレビで見たことのあるアーティストが、私の時間の前後に来たりもする。私のような素人にも立ち話をしてくれて、勉強になるし、楽しくもある。やはりプロは熱心で、私が終わるまで待っている。

先日バンド仲間からメールが来た。コロナ以前まで毎年我らバンドを呼んでくれていた葉山マリーナの夏のイベントが、今年も中止になりそうだと言う。個人ライブも素人バンドでは、多くのお客で埋めないと足が出てしまう。コロナが恨めしい!