拝啓 菊池寛さま | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 413

拝啓 菊池寛さま

これは、今年の高松講演会のノンフィクションライター吉岡忍さんが付けた演題である。

私が高松菊池寛記念館の名誉館長になってから講演会を始めたのだが、もう十数年が経つ。しかし、コロナのおかげで昨年は中止となってしまった。本来は、昨年吉岡さん、今年が下重暁子さんの予定だったが、翌年にあるオリンピックまでが無観客でやると決まったのだから、中止を余儀なくされても仕方がない。吉岡さんも下重さんも1年ずつずれることを快諾してくださった。

以前は、夜6時から始まり8時頃に終了する講演会だったのだが、いつの間にか開演が2時になった。たぶん地方のことだから、あまり遅いとお客様の帰りが難しくなるのを配慮したからだと想像するが、その分しわ寄せがこちらに来る。

昔は、息子たち夫婦と東京駅で9時頃に待ち合わせをして、乗れる新幹線に飛び乗れば十分に間に合ったのだが、開演が2時ともなれば、そうはいかない。その日私は、朝6時に起き顔を洗うだけでタクシーに飛び乗った。

本来は私の住むマンションの前から東京駅行きのバスが頻繁に出ているのだが、なんとか時間を短縮せねばならない。会社を卒業してからは、ほとんどタクシーに乗らなくなった。特に私は、バスのシルバーパスを持っているから、タクシーに乗るのが何とはなしに勿体ない!しかし、新幹線の時間も行き当たりばったりだから、気が焦った。

私は、年に3回以上は高松に行くので、“大人の休日”というJRの会員になっている。東京と高松を往復しても新幹線も乗り継ぎ列車の費用も3割引きになる。ただ残念なことに新幹線の“のぞみ”だけは対象外なのだ。できれば、多少時間がかかっても“ひかり”で行きたい!金額的に大きいのだから。

東京駅のみどりの窓口で訊ねると岡山に行く“ひかり”は、出たばかりだった。次の“ひかり”は、大阪止まり!残念!乗車券は往復を買った。これは、3割引きの対象になる。帰りは、何も予定がないから“ひかり”に乗ればいい。えいや~っと定価で“のぞみ”の切符を買った。
出発まで9分しかない。土産屋に飛び込んで選ぶことなしに世話になる人向けに土産を買い、朝食用にカツサンドと缶コーヒーを買い、ホームに向かって走った。乗った瞬間“のぞみ”は、走り出した。

こんな時期だから車内は、さほど混んでいない!岡山は寒かった、今年は西のほうから寒さが来るとニュースで言っていたが、例年よりずっと寒い!なんとか約束の時間に高松に着けた。もう75歳である。こんなことがいつまで続けられるだろうか?
東京駅でもエスカレーターにも乗らず階段を駆け上がった。岡山の乗り換えもそうだった。

ふと、講師の吉岡さんのことを考えた。吉岡さんだって70歳を超えている。お客様も大事だが、多少時間に無理がある。少し後に吉岡忍さんがお顔を出した。私は、朝早かったでしょ、すみませんと謝った。吉岡さんは、前日に岡山まで来て一泊してきたという。岡山も見たかったし、岡山で美味いモノを喰いたかったからと仰ってくれたので胸をなでおろしたが、そうではあるまい。彼は忙しいのだ!
昔は、東京高松間は、25時間かかったと聞いたことがある。現在5時間で着くといっても遠いのだから、少しは行く身にもなって欲しいなぁ!