我が75歳の筋肉 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp | honya.jp

閉門即是深山 404

我が75歳の筋肉

いつもの喫茶店でのんびり珈琲を飲んでいた。

最近は『Dr.森谷敏夫の年をとったらなまけものでいいやん』という題名で、高齢者の下肢筋肉を“筋電メディカルEMS”といって、外部から電流を流し、無理な運動をせずしてテレビを観ながらでも筋肉をつくることが出来る話。寝たきりのひとも、車椅子のひとも、杖をつかなければ怖くて歩けないひとも、糖尿病、心不全、メタボの高齢者、テレビを10分も観ている間に足やお尻の筋肉が十分に出来るし、自律神経の狂いの回復にもいい。例えば、膝の十字靭帯断裂の後の再建手術の場合に通常のリハビリだと筋肉を動かさないのでしだいに下肢筋肉が細くなってくる。3ヵ月経っても元に戻らないのが、EMSを使えば、3ヵ月経つと入院時よりも筋肉が太くなり退院することが出来る。「もう、諦めた!」と思っている高齢者への福音書がこの一冊。
もう一冊は『彼と博士のものがたり』と題して、京大の名誉教授で、この“筋電メディカルEMS”の生みの親、森谷敏夫教授が、如何にして、如何なる目的でEMSの製作に専念したか、が書かれている本。

この2冊を1ヵ月ちょっとで書き上げたので、こんなにのんびりとする時間がなかった。私は仕事をするのにむいていないと、豪語してきた。本当に体も心も仕事にむいていないと思っている。好き勝手が一番自分らしいのだが、そんなに生易しい世ではないことも知っている。だから、なんとか仕事と思わないで、遊びの一環と思うようにしてきた。だから、みんな常に私が遊んでいるように感じているらしい。もちろん、遊んでいるわけだが……。

“筋電メディカルEMS”の最新バージョンを博士が開発している最中に、私は進んで彼の実験台になろうと思った。面白いもん!遊びの一環だもの。ただ、電気を体に流すことだけには、違和感を持っていた。簡単に言えば「怖かった!」

さて、ショートパンツに着替えテーブルに横たわった。まだ、“怖い”というイメージは私の頭を支配していた。75歳で歩くのもスリスリと音がする。これは、嫌だ!しかし、ねぇ!電気を体に流すなんて、ねぇ!

「教授、75歳のボクにも年老いた妻がいます!」
「あなたね、人間の体を、自分の体を知らないから怖がっているんだよ!人間は、脳から電流が神経を伝わって筋肉を収縮させたり延ばしたりしているんだね、もともと体には電流が流れているのさ!あなたは、ドラムが趣味だったね、右の足、左の足、右手、左手をバラバラに動かす。これは脳が記憶していて、脳が命令を電気に変えて神経に電流として流してるんだよ!歩くことだって、あなたが中学から高校までやっていた陸上部で走ることだって、みな同じさ!赤ちゃんの時には、歩くことさえ出来なかった。でも一度歩けたら、記憶される。その筋肉の動きが筋肉を太くするんだ」

電気が伝わってきた。自然に足が動き出す!意識の外で、自分の足が動いているのだ。始めてからおよそ、4ヵ月、毎日やった成果が出た。バンドの音合わせの時だった「ドラムの切れ味が以前と全然違うね!」仲間たちに褒められた。EMSにハマった瞬間だ!