難しい選択| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 348

難しい選択

今年の夏も暑かった!特にコロナ対策でマスクを外せない所に居ると、熱中症と新型コロナウイルスを天秤にかけねばならないのが辛い!

私が出勤するオフィスの近くの珈琲店のマスターなど、この夏の37度を超した日、仕事が終わって後かたずけをしたあと両手の指が動かなくなったと聞いた。彼は、店の中を冷房で冷やし、ドアは換気のために開けていたと言う。退職後、オーナーから譲り受けた店での初めての夏だった。自分が熱中症になるなんて思いもよらなかったようだ。テレビでは、新型コロナも熱中症も似た症状で、味覚障害が出たらコロナを疑えと言う。しかし、そんな時点ではコロナは大分進行しているのではないだろうか?

お盆の前の4連休前に東京都は、県跨ぎをしないで欲しいと言っていたし、老人は出来るだけ家から出ないで欲しいとも言っていた。法律が無いだけに強制が出来ない。だからお願い事になる。東京に勤務している人たちは、神奈川県や埼玉県、千葉県に住んでいる人が多い。東京の要請は、この3県の言葉でもある。
私の住むマンションは大きくて、5000人以上が住んでいると聞いたことがある。自動車の駐車場も2ヵ所にあり、結構ギッシリと車が停まっているが、この夏はいつもの夏と違い、4連休でもお盆でも出かける様子がない。エライ!と思った。日本人は、実にまじめで賢くて都や国が言いたくても言えない遠回りの言い方を理解しているのだ。マスクもマンション内でもほとんどの人が着けている。子供たちは別としても、普段はホテルぐらいの大きさがあるラウンジでお喋りを楽しんでいる主婦や老人も、今は、いっさい見かけない。傍のスーパーの袋をぶら下げて夫婦でゆっくりと歩く老人たちは見かけるが、きっと皆部屋に籠って出てこないのだろう。

私の友人のひとりで生理学者、研究者がいる。もう大学を退職しているが、あれほどの感染症の知識を持っている人が、自分の家から出ない。郷里は湯田中に近い温泉地で、自宅でも温泉が楽しめる。また数年前に亡くなった奥様のために買ったという軽井沢や葉山に別荘を持つが、毎夏の楽しみを捨て、新型コロナウイルスの問題が収束するまでは、東京の家から、部屋から一歩も出ないと決めたようだ。私が訪ねると彼の持つマンションの小さな庭に小さなテーブルと椅子を置き、2、3メートルのディスタンスを作ってある。彼は、100円ショップで買ったという花粉用の眼鏡をかけ、マスクを外さない。コロナに万全の構えである。

ところが、国や都のお願い要請をまったく無視する老人もいる。高原に貸マンションを借りたから、とか別荘があるからとか、暑いからとか!withコロナとか新しい考え方の生活とか言うコンセンサスがとれていないような生活。自分の欲だけで、自分たちだけが涼しい場所で楽しんでどこが悪いとでも言いたげな人々を知ると、差別は良くないと思いながらも「勝手な奴らだなぁ!」と思う。私がそのひとりに「東京や近郊県のナンバープレートで行くと石を投げられるぞ!」と言うとむっとした顔つきで睨まれた。お医者様がテレビなどで言う「自分がコロナウイルスを持っていると考えての行動を!」と言うが、他人の気持ちより自分の欲望が優先する人も!