壊れる| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 347

壊れる

新型コロナウイルスの出現で判ったことが幾つかある。国や都がよく言う「新しい生活様式」がそのひとつだが、私にはその“新しい生活”がピンと来なかった。だが、コロナ現象を考えているうちにだんだん見えてくるようになった。それは、国や都の思惑と違うかもしれないが、前々から私が考えていた疑問を溶かす材料でもあった。

以前、私は、若い世代の人たちの前で講演や講義をする時には決まって謝ることから始めていた。「こんな世にしてしまって、許して欲しい」と。聴いている若者たちは、何が何だか解らずにキョトンとしていた。しかし、説明はしなかった。限りある時間に、その説明をするには時間が足りない。講演で決められている中身を話さねばならないから!また、上手く説明する自信もなかった。

明治維新によって日本は、ガラリと変わり民主的国家になった。国民による、国民の為の政治であり、経済である。日本人は、この時初めて自由と平等という基本的人権を意識の中に持った。ところが、どこかで間違ったような気が私には、してならなかった。いったい何処で、どんな間違いをしたのかが私の疑問だった。薄々は、判っていたが確証が無かったのだ。

コロナ現象が始まった時を思い出してみると、まずマスクが薬局から姿を消した。キレイキレイとか手の消毒液も共に姿を消した。あったとしても「ひとり1枚ずつ」とか書かれている。映画館が閉まり、劇場やライブハウスも閉まった。医療関係者の着る防護服も特別なマスクも、医療器具も品薄になった。これらの品々は、昔日本人が得意として作っていた物ではなかろうか?
あのジープを作っていた三菱も自動車から手を引いた。“技術の日産”と言われた日本が誇れる会社までが、一度は他国の物になった。江戸切子や“技術的に素晴らしい”と他国から言われてきた大田区あたりにある部品も自国では、ほとんど作らなくなった。あらゆるモノが、どこかに外国の部品を使うようになり、自国だけでは完成品が出来なくなった。
グローバリズムという言葉が生まれるようになると、日本の誇る全てのモノがおかしくなり出し、それが加速した。日本の老人化が始まり、老人大国英国に似てきた。英国もほとんどのモノを他国に委ね、自分で作れなくなってしまっている。ミニクーパーもドイツのBMWに売り渡し、ジャガーも米国に売った。そして、国民の働き先を失った。日本の誇る産業のひとつ電機メーカーも、サンヨーの名は無くなり、シャープは売り払い、ソニーは多国籍、松下電器だけか!コロナ問題でも鬱になりそうなのに、米中の間に冷戦時代が生まれそうだ。

そうなれば、マスクにしても何にしても自給自足にならねば生きて行けない。現政権は「観光立国ニッポン!」と謳ったが、外国からの観光客にもはや期待出来ない。それを提案した菅某氏は、観光団体から背中にナイフを付きつけられ、無謀にも一番コロナ現象が重要な時に“Go To キャンペーン”を強行して人命と経済を天秤にかけた。我々世代が大きな牛乳瓶や芝の庭のある庭、一家に2台はある車、パーカーの万年筆、オメガの時計、スリーBのパイプに憧れて米国のような国になりたいと思ったことが、いけなかったのだろうか?マスクくらい自国で作らなければ、ねぇ!