映画『セッション』 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 298

映画『セッション』

この夏も暑かったですねぇ!昔は、年に1度か2度あるかないかの30度越えになると大騒ぎでしたが、毎日、北海道でも何処でも体温に近い温度になる現在とは、比べ物にならないくらい涼しかった。夏に「涼しい」なんて表現は、変ですが、とにかくちょっと前までは、こんなに暑くはならなかった気がする。

熱中症患者が、全国500人以上も出た日だった。駅前の珈琲店でたっぷり水分を補給し、愛用のアイコス電子タバコをスパスパと吸い、さて、とドラムの稽古に出かけた。何となく人が少ない!地下鉄もやや空いている。暑さで、ぼ~っとしている。今年の夏は、湿度が高いからやっと生きている気もする。

自分でも馬鹿だなぁと思うのだが、毎週2回は3時間の復習をしないとドラムの個人教室についていけないのだ。初夏だったか、ひとつのフレーズが敲けず、2小節のために約ひと月かかってしまった。自分では、どうして上手く出来ないのかが解らない。先生は、どこが悪いか教えてくれない!ただ「ダメ!」と言うばかりだ。普段ならば、優しく教えてくれる先生なのに、何回やっても「ダメ」出しばかりでひと月も過ぎた。「あなたなら出来ますよ!」と言うばかりだったから、頭も混乱していた。自己練習のために借りているスタジオで週2回3時間ずつやっても、どこが悪いのか判らなかった。4年前に封切した映画『セッション』の主人公になったような気がした。

それは「ふと」だった。基礎編を勉強していた頃を思い出した。そして、答えは、その1頁目にあったのだ。6年近く前のその頁を必死に思い出した。1小節4分の4、たしか最初の日に習った。トン、トン、トン、トン右足でバスドラムのペタルを踏む。一番簡単な動き。ところが、今は、手の方がどんどん難しくなっている。複雑なのだ。足は、トン、トン、トン、トン「手につられて、足が正確に動いていない!判った!」もっとも簡単だと思っていたことが、出来なかったのだ!先生はニコっと笑って指でOKマークを出してくれた。この歳で、人から何かを教えてもらうのは、良い!頑固な頭が、少しは柔軟になる。それに、何をやるにも基礎からコツコツと学ぶワケも判る。なんでも繋がっていて、傲慢にも出来るからと途中から習っても、困った時に戻る所が無い。

私は、大学時代からドラムを敲いていたが、67歳になって「その一」から教わり始めた。だから、複雑になっても「どこが自分で判らないのか、間違っているのか」発見できた。この暑さの中、ふらふらになりながら練習場に向かって歩く。素人だから誰も期待はしていないだろうに、熱中症で死者が出る暑さの中を復習に向けてひたすら歩く!お前、バカか?と頭のどこかが叫んでいるようだが、その言葉も無視して歩く!アスファルトに陽炎が立つ中、片手にスポーツ・ドリンクを握りしめて歩く!
まさに映画の『セッション』。これが、爺の意地なのだ!