祖父生誕130年、歿後70年の年の芥川・直木賞 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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祖父生誕130年、歿後70年の年の芥川・直木賞

今年は、菊池寛の生誕130年、歿後70年の年にあたる。私は、今年72歳を迎える。祖父の命日が3月6日、私が生まれたのが6月だから、この世で祖父と暮らせたのは、1年と9ヶ月ということになる。まったく私は、息をしている祖父を覚えていない。母の話では、私は祖父に大層可愛がられたそうだ。「お爺ちゃんは、59歳で亡くなったでしょ!もっと長く生きていたら、貴方はまともに育っていなかったと思うわ」母の口癖だった。はっきり言って私は、まともでは無い。しかし、祖父に相当甘やかされていただろうと思う。「お爺ちゃんは、仕事の途中でもすぐに寝ている貴方を起こして遊ぼうとするのよ。せっかく寝かせて、やれやれと思ったころにね」そんな話をしている母の顔は、何か懐かしそうであった。

戦後、菊池寛は連合軍からパージを受けた。公職追放である。パージが溶けぬ間に、昭和23年この世を去った。文藝春秋を創り、日本文学振興会で芥川龍之介賞・直木三十五賞、菊池寛賞を創設し、初代の大映社長になり、日本文藝家協会を創った祖父は、全てから身を引くことになった。作家業だけは、自由業だから続けられたが、欝状態だったと父から聞いたことがある。「僕は、戦争は反対だったよ。戦争に入る前には、随筆や講演で反対の意見を沢山述べたんだ。でもね、反対でも戦争になってしまったんだから仕方ないだろ?勝たなきゃならない。日本が無くなったら困るのは、一般の国民だからね。だから、勝たねばならないと言ったんだよ」祖父は、父に言っていたらしい。
映画の大映は、昭和40年半ばに無くなったが、形を変えて角川映画となっている。日本文藝家協会は、作家の権利や健康の維持のため活躍しているし、文藝春秋は皆様ご承知の通りであり、日本文学振興会の芥川賞・直木賞は社会性を帯びて大きなニュースになるようになった。

昨年暮れに、第158回(2017年下半期)の芥川賞・直木賞の候補が発表された。芥川賞は『新潮』11月号に掲載された石井遊佳さんの『百年泥』、『群像』9月号の木村紅美さん作の『雪子さんの足音』、『文學界』12月号に載った前田司郎さんの『愛が挟み打ち』、『文学ムック たべるのがおそいvol.4』に掲載の宮内悠介さん『ディレイ・エフェクト』、河出書房新社刊行の若竹千佐子さんの作品『おらおらでひとりいぐも』の5作品。直木賞は、彩瀬まるさん『くちなし』(文藝春秋)、伊吹有喜さん『彼方の友へ』(実業之日本社)、門井慶喜さん『銀河鉄道の父』(講談社)、澤田瞳子さん『火定』(PHP研究所)、藤崎彩織さん『ふたご』(文藝春秋)の5作品であった。おいおい違うだろう、文春の本が複数候補になった時は、公平をきす為に6作品にする決まりだったんじゃない?候補の藤崎彩織さんは、4人組バンド「SEKAI NO OWARI」でピアノを演奏している。