趣味| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 338

趣味

毎回訊かせて頂いている恒例の質問ですが、貴方の歩まれてきた人生を道に例えればどんな道ですか?

パーソナリティーの千花有黄さんが私に訊いた。きっと、この質問は、以前渡されたA4版に印刷された2枚のペーパーにあったのだろう。

5月4日連休のど真ん中、世間の皆が自粛していた月曜日の夜に放送された番組、ゲストとしての3週目最終回の最後の質問だった。しかし、私は頂いたたった2枚の紙なのに1行も目を通さないで横浜関内にあるラジオ日本『千花有黄の道いろいろ』のスタジオに入ったのだ。3週間分いっぺんに収録するためだった。

年に何回か講演、対談、座談会、講義やテレビ・ラジオの依頼を頂く。2、30分の時もあれば2時間ひとりで喋りまくる時もある。お客様も100名くらいから1500名くらいとまちまちである。もちろん、持ち時間に合わせてどんな話をしようかは考えておく。調べもする。認知症に近づいているから、忘れやすい名前や年号は、メモをとっておく。しかし、現場に行けばほとんど見ない。小心者であるから、自分で作った道を外すと焦ったり、あがったりしてしまって、後が、しどろもどろになってしまうからだ。かえって喋る道筋を考えておかないほうが私には良さそうである。

今回のようにパーソナリティーがいたり、対談相手がいたり、また司会進行役の方がいれば御の字で、答えれば良いだけだし、講演は、お客さんの顔色を見ながら、こんな話面白い?いや、乗ってこないな、じゃ話を変えて、こんな話でどうや!お、乗ってきたぞ!これで行こう!もちろん口には出さないが、頭の中で考え、当日の客席が喜ぶような話をすればいい。
5月に俳優の原田大二郎氏との対談が決まっていたが、来年に延期されてしまった。7月以降どうなるものやら!
これとは別に、年に80本くらいの書き物がある。ほとんどが、エッセイ的な雑文だが、小説的な物や伝記的な物もある。しかし、考えてみると、実にいい加減に喋り、いい加減に書いている。

70歳を過ぎると、何もかもが趣味と言っていい。趣味と仕事の間を行ったり来たりしているようだ。私は、中学、高校共に陸上部の短距離選手だった。しかし、今さら走るなんて嫌だ!昔は、馬術に凝って、馬房で馬と一緒に寝ていたこともあったが、今や馬から落ちれば大怪我じゃ済まないかもしれない!こんなことであの世に逝ったら「馬鹿!」と息子に罵られるのが目に見えている。

会社勤め時、よくやっていたゴルフも止めた!ゴルフをしたことがある方には判るだろうが、躰が固くなりスイングが「明治の大砲だ」と、言われる恐れがあった。
私の寝床の横には、作家の生島次郎さん、大沢在昌さんのサインの入ったゴルフボールが飾ってある。むかしむかし、3人でゴルフの聖地セント・アンドリュースを廻った記念のボールである。漫画家の本宮ひろ志氏や巨人軍の江川卓氏とも、多くの有名な方々とゴルフをやったが、止めた!

さて、残ると言えばドラムである。大学時代にバンドを組んだが、7年前から先生に付いた。せっかくの唯一の趣味が5月の大型連休を挟んだ自粛でバンド仲間と演奏が出来なくなった。千花さんの答えに「未だに道に迷っています。ただ、今は私にはドラムがあります」と、言ったのに!