『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 151

『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』

私は、四国高松に年に最低3度は詣でている。
先日、高松にも多くの雨を降らせた台風16号が沖縄あたりをうろうろしていたころにも高松に出かけた。
理由は、高松が祖父の里で、菊池寛記念館がある。現在の私の仕事の一部であるのが、その記念館の名誉館長なのだ。

記念館は、高松駅からは少々距離はあるが香川県庁や高松市役所、また主だった銀行の本店や支店、証券会社が居並ぶ、東京で言えば大手町や丸の内、霞が関といった区域からさほど遠くはない。その交差点のひとつの路に菊池寛通りという名が付いていて、それは祖父の作品『父帰る』や『恩讐の彼方に』などのブロンズが何メートルおきに置かれているというくらい菊池寛一色の道路である。

場所を正確に記すと、高松市昭和町1-2-20サンクリスタルという市営図書館の3階にある。4階は、いろいろな企画展が出来るスペースがあり、1~2階は、図書館である。もし、場所をお探しの方は、「高松市菊池寛記念館」と検索すれば、ホームページに詳しく載っている。
http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kyouiku/bunkabu/kikuti/kantop.html

私が高松詣でと称して出席するイベントは、3月ころに「香川県菊池寛賞」がある。
菊池寛賞は、菊池寛が創立した文藝春秋にも毎年12月に授賞式があるが、香川菊池寛賞は小説等の新人賞で、私は、その授賞式に出席する。その後、中央公園にある菊池寛の銅像で献花式を行い、受賞者を囲み銅像の前で記念写真を撮る。そして、受賞者を祝う食事会となる。

二つ目の高松出張は、文学展の開会式だ。毎年文芸員たちが考え考え決めていく。
「与謝野晶子・与謝野鉄幹文学展」もあった。「夏目漱石展」もあった。各々の記念館から貴重な品々を拝借して展示、説明するのは大変なことだろう。私は、開会式に出席し、白い手袋をはめ、金のはさみで紅白のテープをちょん切る役目である。また、その後、市長に続いて開会の挨拶をしゃべらねばならない。以前は、初夏、7月前後の開催が多かったが、最近では9月、10月になってきた。11月か12月は、文化講演会がある。菊池寛に纏わるお話だけに限らないが、芥川賞や直木賞の受賞者や選考委員にお願いして高松まで行っていただく。井上ひさしさんや伊集院静さんにも行っていただいた。今年は、林真理子さんに行っていただく。
秋に行事がふたつも続くのは、甚だ辛い。これだけならいいが、私も各地からの講演のご依頼もあり、それが春か秋である。日本ペンクラブの各地のイベントも秋が多い。なんとかして、高松の文学展を以前のように初夏に持っていく手立てが無いものかと考え悩んでいる。

さて、今回、台風に逆らって行った高松の文学展の題材は、『宮沢賢治展』であった。
『注文の多い料理店』、『雨ニモマケズ』、『銀河鉄道の夜』、『風の又三郎』の著者は、宮澤賢治さん。私の祖父と同時代に生きたひとで、37歳で結核によってこの世を去った。
宮澤賢治の里は、岩手県の花巻であった。5人兄弟姉妹の長男で3人の妹たちと8歳年下の弟がいた。弟の宮澤清六氏をとても可愛がっていたという。
今回の文学展には、清六氏の孫の宮澤和樹氏が出席されていた。和樹さんは、現在花巻市の花巻駅近くに、宮澤賢治の世界に誰でもが浸れるスペースを造り林風舎と名づけて2階には、珈琲喫茶店を、また1階には賢治の作品をモチーフとしたグッズ作品を販売している。

宮澤家では宮澤賢治を「賢治さん」とよんでいると聞く。菊池家では、菊池寛を皆が「お爺ちゃん」とよぶように。確かに、37歳で逝ってしまった人だから「賢治さん」はふさわしい。我が家の「お爺ちゃん」の愛称は、とても難しい。私は、孫だから不自然ではないが、ひ孫に当たる我が子供たちも「お爺ちゃん」で通している。ならば、私の父、彼らにとって本当の祖父をどう呼んでいるかと言えば「英樹さん」である。

賢治さんの遺品の展示物の中に黒革の小さな手帖があった。昔よくあったペン刺しのついた手帖である。表紙には、金文字で「note」とある。
開くと、賢治さんの字が眼に飛び込んできた。もちろん複製であるが、遺品として出てきたものらしい。それは、死を覚悟した賢治さんが両親に宛てた遺書だったのだ。昭和6年9月2日付で書かれてある。一冊の手帳に短歌や詩などさまざまなことを書き記している。「雨ニモマケズ」は昭和6年11月3日にこの手帳に書き残してあった。

雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモ マケヌ
丈夫ナカラダヲ  モチ
慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニ ワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ 野菜ヲタベ
北ニケンクワヤ ソショウガ アレバ ツマラナイカラ ヤメロトイヒ
ヒドリノトキハ ナミダヲナガシ サムサノナツハ オロオロアリキ
ミンナニ デクノボート ヨバレ
ホメラレモセズ クニモサレズ
サウイフ モノニ ワタシハ ナリタイ
南無無邊行菩薩 南無上行菩薩 南無多寶如来 南無妙法蓮華經
南無斎釋迦牟尼佛 南無浄行菩薩 南無安立行菩薩