「倶楽部」について | honya.jp

閉門即是深山 54

「倶楽部」について

倶楽部やクラブの文字を見ると銀座の飲み屋を思い浮かべる方も多いと思う。また、ゴルフ場を思い浮かべ、こんなブログ読んでいる場合じゃない、練習場に行かねば、とログオフのキーを叩くご仁もいらっしゃるかも知れない。

先日、私が入会している日本ペンクラブの会が催された。どうもこの会は、年に2、3度ある。有楽町にある東京會舘の11階のフロアを使って、理事会の後、5時半から会員の懇親会が始まる。私は、懇親会に出るつもりで5時にエレベーターに乗った。手伝いがあるやも知れないから、このような会のときは、少し早めに着くようにしている。聞くところによれば、東京會舘は、今年をもって一時休業するらしい。東北の大地震の後、行政による建物チェックが厳しくなったそうだ。結局、旧建物に耐震、免震を施すより建て替えた方が安くなる。そして、高層の建物に替え、一部を元の本体で使い、他のスペースを賃貸事務所とする方式で建物代金を出すことが流行っている。ホテルオークラもそのようにするらしいと噂で知った。神田駿河台下にある如水会館も東京會舘が経営していると聞いたことがあった。東京會舘名物のカレーライスを味を変えぬまま出してくれれば良いと思う。東京會舘は、日比谷にある東宝の日比谷シャンテにも軽食の出来る喫茶店を持っている。しかし、気のせいかカレーの味が違うようだった。
東京會舘での芥川賞・直木賞の授賞式は、名物になっていたが、昨年早々に両賞は、帝国ホテルに移ってしまった。

エレベーターを降りると、まだホールは空いていた。受付が会員の胸に着けるネームプレイトを「あ・い・う・え・お」順に並べている。私は、荷物を預け、ホールにある喫煙所に座った。ぼちぼちと見知った顔がエレベーターから吐き出されてくる。立ち話をしている人たちも増えだした。理事会室から、疲れた顔をして理事作家たちが、懇親会場に移りだした。受付を済ませていたとき、会場内からマイクを通して、開催するとの声が聞こえた。毎回、懇親会の前にミニ講演会がある。今日は、東京マラソンの生みの親でもある○○さんに20分くらいのお話をして頂きます。司会者は、挨拶の後に続けた。
20分か、私は妙に心配をした。私にも講演をしてくれというお話は、たまにある。お断りしたことは無いが、時間は、最低でも45分は貰うことにしている。ひとつの話をまとめようとすると、ある程度の時間はかかる。言葉を選んでも、聞いたひとに誤解が生じるのが怖い。東京マラソンの生みの親氏の話が始まった。案の定、実は自分が東京マラソンの企画をしたのだと、聞こえてしまう。これじゃぁ、私が忌み嫌う「俺があの作家を作ったんだ」と豪語する編集者と同じではないか。確かに、作家と編集者がカップリングして、作家が大きなデビューを果たすことはある。だが、他人が言うのを待てばよいので、自分から言ってしまっては「お終いだよ」と言いたくなることがある。「私が、東京マラソンを作った本人だ」と言われ、私は白けてしまった。そして、愚痴が始まった。「自分がしたかったのは、民衆による、民衆の為の、マラソン大会でしたが、東京都は、その企画だけをパクッた。そして、警察官僚や行政が始めたために開かれた民衆の手によるマラソン大会にならなかった。自分は、これから理想のマラソン大会をめざして頑張る所存だ」とミニ講演会は、締めくくられた。まっ、理想や夢を追って努力している人に文句も無い。
しかし、海外を視察して欧州や米国にある「民衆の手」で「オープン」な大会を日本でやろうとして、その間違いを行政や官僚のせいにするのは、些か軽率すぎやしないだろうか?

例は、些か遠廻りするが、自動車を運転する方ならJAFを知っていると思う。車が故障したとき、電話1本で助けてくれる日本自動車連盟のことだ。外国にも、同じような倶楽部がある。AAAといったものだが、生い立ちが違う。日本の場合、JAFが無かった50年くらい前には、各ディラーが各々の工場に車を運ぶクレーン車を用意していた。無駄が多い。そこで、自動車会社主動でJAFが生まれた。外国の場合の多くは、自転車であった。石畳の多い外国では、パンクしやすい。そこで、自転車に乗る人々が、お金を出し合い、一定の間隔に空気入れやチューブを置いた。歴史がある。ゴルフもしかり、日本のカントリー倶楽部は、倶楽部とは言えない。ゴルフ場と言えば、多少頷けるが、皆がゴルフをしに行く場所だ。英国を取材すると、まさに倶楽部であった。人に会いに行き、話す場所。たまたま、そばにゴルフ場があるから、たまにゴルフでもご一緒しようかという場所である。私の友人が、英国に住んでいたころ、日本から来る日本人の接待のため、英国名門のカントリー倶楽部に入会した。面接官は申請書を見つつ「君は、独身かね」と彼に訊ねたそうだ。「家内ならいます」と答えたら、摩訶不思議そうな顔をした面接官氏は「何故に、奥さんと入会しないのかね」と言われて、彼はしどろもどろになったと聞いたことがある。英国のカントリー倶楽部は、食堂には男女で入れるが、談話室は、男女別々に用意されている。男性用は、暖炉がありマホガニーで溢れる。女性用は、ふりふりのカーテンや薔薇の壁紙で、互いの部屋で女房の悪口や夫への愚痴が話せるようになっている。これこそ倶楽部組織だろう。華厳の滝は手摺で覆われ、ナイヤガラの滝には、手摺などあまり見えない。外国は、自己責任が浸透していて大人の国が多い。日本は、お上に頼って文句を言う癖を持つ。
話を戻せば「民衆の手」は、民衆個々の意識を変えなければならない壮大な事業だと思う。