京都の単身生活 | honya.jp

ポテトサラダ通信 8

京都の単身生活

校條 剛

 この二月から部屋を借りて京都市内に住み始めました。引っ越し業者に頼んで東京の自宅から大きな物を運んだりは一切しないで、小物や多少の衣類はスーツケースに入れて、何度かに分けて持ってきたりしていました。包丁3本、お皿やフォーク、ナイフ、湯たんぽ、小さな枕、とかを事前に持参し勤め先の学校の棚に置いておいたのです。
 部屋はワンルームですから、物を置けるスペースが限られます。それでも、どうしても必要なものは多少嵩があっても揃えなくてはなりません。
 一番に重要なのは寝具でしょうか。布団は、自力では運べないので、京都で購入することにしました。女房がときどきやってくるでしょうから、床の上に敷くマットを加えて、敷き・掛け布団セットを二人前です。これは京都駅のビックカメラで揃えました。
 ビックカメラでは、ガス台も注文。これも手では運べず、届けてもらうことに。
 冷蔵庫、洗濯機、衣装タンス(小さいの)、電子レンジ、トースターの5点は学校近くのリサイクルショップで一気買いです。リサイクルですから、これ全部で5万円に届きません。
 洗濯用の物干しセットなどは電動自転車を駆って、川端通り沿いにあるケーヨーD2へ二度ほど行きました。
 その電動自転車ですが、東京の自宅では車があるので、売り場にすぐに飛んでいけ、大きな荷物もたいてい自力で運べるのですが、ここではどんなに頑張っても自転車利用がいいところです。そこで、学校の京都生活先住者たちの勧めに従って、電動自転車を購入することにしました。購入した店は、京都タワーの真後ろのヨドバシです。この買い物が単体では一番高かったですね。10万円以上しましたよ。まあ、これは東京に戻っても使えるでしょうから、無駄な投資ではなさそうです。ヨドバシから、自宅マンションまで乗って帰りましたが、この街のメイン街道 烏丸通から一本西寄りの道を一直線に北上し、二条通に出たら東に曲がってしばらく走るとマンションまで来てしまいます。京都は道路が東西南北はっきりと描かれているので、楽ちんです。
 鍋やフライパンは、自宅から送ってもらったり、こちらのスーパーや三条河原町のLOFT、百円ショップのキャンドゥ、ダイソー、セリア、京都駅のニトリなどで購入しました。コメを炊くピース(平和)の圧力鍋は女房に追加の衣類を頼んだときに宅急便の段ボールのなかに一緒に入れてもらいました。
 女房が応援に来てくれてからは、かなり楽になりましたが、ホテル暮らしの傍ら、荷物が届くのをがらんとしたマンションの部屋で待っているときが、一番大変でした。京都は寒いというのが定説なので、エアコンだけではさぞかし体が冷えるだろうと、それも心配でした。
 しかし、ワンルームマンションの部屋は、エアコン一つで結構温かいのでした。今は三月の半ばになろうとしている時期ですが、暖房器具を新たに揃えてはいません。エアコンのみです。東京の自宅はへたに建築家に設計させたので、お決まりの吹き抜けの家で、当時は床暖房も盛んではなかったので、未だにガスストーブのお世話になっています。せっかく温めた熱も、すぐにどこかへ逃げてしまい、とりわけ一階の寒さは半端ではありません。年をとってから、マンションに引っ越す人の気持ちがやっと分かってきました。

 一時手伝いに来ていた女房も帰ってしまい、それ以来、ひと月くらい単身で暮らしています。朝起きると、まずは朝食の用意をします。前夜の汚れた皿などは、夕食後速攻で洗っていますので、毎朝すっきりとした台所に立つことができます。朝食は紅茶と野菜、納豆、ゆで卵などで簡単に済ませ、洗濯に取り掛かります。お湯を大きな薬缶(自宅向いの古びた雑貨屋のじいさんから購入)にいれて、何度か洗濯機に注ぎます。冬場は水が冷たいので、洗剤がよく溶けるようにお湯を混ぜるのです。それから、歯を磨き、髭を当たったり、鼻毛を切ったりして、出勤の準備に入ります。洗濯が終わると、室内物干しセットに脱水された洗濯物を干します。それが終わると、やっと出勤です。
 冬場はたいていバスに乗ることになります。204番のバスに裁判所前という停留所から乗るのです。学校まではだいたい25分でしょうか。
 昼食はだいたい学食でとります。野菜とメインのお皿ですが、やはり揚げ物やハンバーグなど脂肪分の多いメニューばかりで選びようがありません。カレーライスやうどん、そばもありますが、こちらは炭水化物ばかりになりますしね。結局、イワシフライの定食に落ち着くことが多いです。
 夕方、会議などが入っていないときには、いつも慌てて帰る準備をします。6時以降ぐっとバスの便数が減ってしまうからです。バス停で待つのが苦手なので、1台逃してしまったときには、次のバス停まで歩きます。次どころか、次の次の次、そのさらにまた次と、停留所の出発時刻を確かめながら何駅も歩いてしまうことはざらです。
 どなたかと一緒に食事するとか飲むとかの約束がある日は別ですが、夕方はまっすぐ帰宅することが9割9分、ほぼ毎日です。食材が揃っているときはいいのですが、メインの魚類が欠けていたりすると、歩いて10分の位置にあるスーパーのFrescoに自転車で向かいます。肉はほとんど自宅では食べません。外食のときには肉類になることが多いので、糖尿病をやったことがある私は気をつけているのです。
 夕食の料理はいたってシンプルなのですが、6時半に始めて、食べ始められるのは1時間後の7時半でしょうか。ときどき8時になってしまうこともあります。時間がかかる理由は、野菜を食事の最初に大量に摂取するというスタイルにあるのでしょう。日野の自宅にいるときには、中皿に山盛りの各種生野菜をオリーブオイルと特製の出汁をかけて食していました。こちらでも似たようなことですが、冬場は無理せずに何種類かの野菜をオリーブオイルで炒めているのですが、ニンニクを剝くのだって結構時間がかかります。

 さてさて、京都の食材について語って、今日の通信は終わりにしましょう。
 まず野菜です。これは東京と大差がないような気がします。いつも買うところはスーパーですから、テレビなどで知られている京野菜などといったものにはとんと無縁です。ほんとにいい京野菜は、契約している料理屋に行ってしまっているのだと思います。
 魚。これは、たとえば「のどぐろ」の開きなんていうのが並んでいたり、ときに聞きなれない魚にお目にかかります。錦市場の定番の「ぐじ」の一夜干しなんていうものは、スーパーには売っていませんので、京都に来てから一年近く、一度も食べたことがありません。
 韓国産のさわら、ノルウェイ産のなんとかカレイなど、外国産の魚も目立ちますが、そうした切り身が結構いけます。東京のスーパーの魚よりもこちらは間違いが少ないような気がします。また、東京は干し魚が多いですが、こちらは切り身が主流のように見えます。逆に言うと、干し魚には魅力が感じられません。
 肉はよく言われるように、豚よりも牛のほうに比重があるようです。ある人が関西ではうまいとんかつが食べられないと話してしましたが、たしかに学校のまえのポテトサラダ・サンドが絶品のパン屋さんのカツサンドはなんでか旨くないのです。
 まだ、ポークは買ったことがないので、なんとも言えませんが、ビーフ好きの京都人のために、買いやすくておいしいビーフが東京よりも多く並んでいるような気がします。先日は久しぶりで切り落としの国産ビーフを買いましたが、何グラムだったんでしょうか、野菜炒めにして食べましたが、なかなかのものでした。確か300円しなかったのだと思います。
 それと、特筆すべきは豆腐のおいしさです。決して高い豆腐を購入しているのではなく、売り場で一番安い品物を選んでいることも多いのですが、この豆腐のおいしさはなんなんでしょう。
 さて、そろそろ力尽きてきました。今日はこのくらいにしましょう。