コロナ禍の受賞 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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コロナ禍の受賞

約100年前猛威を振るった感染症は、世界で5000万人から1億人の命を奪った。日本では、大正7年(1918年)8月に上陸し、10月には大流行した。スペイン風邪である。結局、1918年から3年以上収束までにかかり、この感染症にかかった患者は、2395万人、死者は39万人とも45万人ともいわれた。

現在の新型コロナの日本での感染者は、この9月の初めの時点で1955万人、死者は、4万人強と伝えられている。
一世紀を経て医学の進化はかなりのスピードを増している。スペイン風邪と新型コロナは、別物かも知れないし、昔は世界の人口も少なかった。しかし、スペイン風邪のように新型コロナも3年で収束に向かうであろうか?もし、同じであれば2020年の2月~4月頃に大流行が始まったわけだから、2023年の春先に収束するやも知れない。

実は、先日令和4年8月26日「第167回 芥川龍之介賞・直木三十五賞のご報告書」が、公益財団法人 日本文学振興会から届いた。同時に理事長からの案内状も添えてある。本来は、ご招待状であるべき手紙で「ご報告書」も私が勝手に作った名前である。授賞式があった頃、式が終わって1000名近くのお客様と受賞者の懇親パーティーが行われていた頃は、受付でくれる贈呈式小冊子、受賞者の「受賞の言葉」小冊子だった。新型コロナが騒がれ出した2020年1月には、準備も終わり、招待状も出していたし、まだ、感染者が何人か出たという頃だったから、受付に招待客が自由に貰えるマスクの束が置いてあり、消毒用のアルコールがあちこちに置いてあった。その時を最後として、授賞式にお客を呼べなくなった。

ご案内状には「令和四年上半期の第百六十七回芥川龍之介賞・直木三十五賞の贈式・懇親会は、規模を縮小し、受賞者関係者のみにて行いました。」とあった。

私が勤めていた出版社の賞であるし、私の祖父が創設した両賞の話で手前味噌になるが、数多ある文学賞の中で一番知名度があり、多くの若手作家の目標でもある賞をやっと受賞した作家たちの悔しさは幾ばかりのものだろうか?コロナという感染症で、死者も多く出る病だから仕方がないと言えば、そうかも知れない。しかし、今の受賞者は気の毒である。有名ホテルの一番大きな部屋を貸し切り、あらゆるテレビ局が三脚の上にテレビカメラを添え、多くの報道陣の前で華やかな贈呈式があり、懇親会では、各出版社や報道関係者、出版関係者やご親族や友達たちが、名刺を片手に延々と列をつくり並ぶ。この仕来たりが全て消えてしまったのである。あの舞台に上に登壇し、先輩で有名な選考委員の作家に「おめでとう!」を言われる夢が煙のように消えてしまったのだ。

芥川賞・直木賞は、8月に上半期、翌年の1月に下半期と年に2回ある。第163回の受賞者から今回の芥川賞の高瀬隼子氏、直木賞の窪美澄氏を犠牲者の最後に、次回からは是非受賞者が「よかった~!」と思える舞台に戻って貰いたいものだ。