やはり「小説」は、面白い!| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 250

やはり「小説」は、面白い!

耳が悪くなった!これは、音楽を趣味に持つ者にとって致命傷である。
7月の終わり、台風が関東に上陸した日のライブで、私は、失敗をやらかした。十数曲の内、1曲だけ歌手から入る曲があった。私の担当するドラムは、舞台の奥にある。普通のライブハウスだから、舞台奥に向かっての返しのスピーカーは無い。私がカウントをとった。しかし、歌手の声が聞こえなかった。一瞬不安になり、スティックを持つ手を止めてしまったのだ。ベースやキーボード、ギターは、歌に続いたものの、私だけが止めてしまった。MCが間に入り、もう一度やり直した。素人の余興だからと、お客は、かえって面白かったかも知れないが、私の心は、小さな傷をおった。

老眼の目も悪くなった!乱視が進んだのだろうか、老眼鏡が合わなくなった。
長年、小説の編集者を生業としていた私は、OBになっても1年に150冊は読むように努めてきた。昨年までは出来た。今年になって、それが出来なくなってしまった。たて続けに文庫本を読んだからかも知れない。若干、白内障ぎみになったのかも判らない。読んでいて辛くなったので、少し休むことにした。読みたくて買った文庫本は、沢山ある。家人に叱られながらも書店のビニール袋に入れっぱなしの本が沢山あるのだ。本は、見つけた時に買わないと後で探すと、ひと苦労する、後悔するから、ついつい買ってしまう。現役時代に買った本は、全て読んでしまった。そして、また買いだしたのだが、今年に入って読めなくなってしまった。まさか、こんな日が来るなんて想像だにしなかった。読める時にどんどん読まなければ、こんな目に遭うと後悔した。
読まなくなって半年、しびれを切らして書店に駆け込んだ。そして、ダン・ブラウンの著作『オリジン』の上下巻を買った。『オリジン』=「起源」。「最初の・原始の・独創的な」の意を表すオリジナルの語源である。武者ぶりつくように読んだ。それは、熱中症の身体に水を入れたように沁み込んでいった。

実は最近、私が本を読んでいないのを見て心配してくれた人たちがいた。いつもオフィスに入る前に立ち寄る珈琲店で働く人たちだった。昨年までは、席に着くと直ぐに本を開いた私が、珈琲と煙草だけでボケ~っとしている。ついにアルツハイマーか認知症にでもなったのかしらん、と噂をしていたらしい。それがぶ厚い本を開きだしたのだから、認知症から脱出したんだと陰で喜んでくれたらしい。
今、私の机にぶ厚い本がある。今年の初夏に買った大沢在昌の著書『爆身』(ばくしん)である。帯には、「『新宿鮫』を初めて読んだ時を思い出した。久々の大沢氏の大作に心が躍った。」とある。また「ページをめくる手が止まらない!ノンストップ・ハードボイルド」と書かれている。その通りだ!