小説の楽しみ| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 245

小説の楽しみ

ダン・ブラウンは、1964年にアメリカのニューハンプシャーの出身というから、今年54歳と若い作家だ。
18年前の2000年に出版した『天使と悪魔』で作家デビューした彼は、それまで生業としていた英語教師を辞めて、作家の道を選んだ。私の急逝した長男がベタ褒めしていたので私も読み始め、ダン・ブラウンの小説にハマった。彼を知らない人も2003年出版され、大ベストセラーになり、映画化もされた『ダ・ヴィンチ・コード』の作者と言えばお判りになるだろう。ダン・ブラウンの父は、数学者だったそうだ。母は、宗教音楽家という。彼の奥様は、美術史研究家で、画家でもあるらしい。『デセプション・ポイント』や『パズル・パレス』、『ロスト・シンボル』『インフェルノ』の作者でもある。彼の小説には、宗教象徴学者のラングドンが主人公として出てくる。シリーズ物であるが、背景にキリスト教などの宗教と美術が絡んでくる謎解き小説だが、面白い。至る処に現代の宗教論が見え隠れしているのだ。
今、私の仕事机の上に今年2月の末に出版されたダン・ブラウンの最新著書『オリジン』の上巻が置かれている。帯には「世界累計2億部突破のダン・ブラウンの最高傑作」と書かれている。読み始めたところだが、面白い!

いつも思うのだが、アメリカやイギリスの作家たちは書く作品が少ない。ダン・ブラウンでも18年間に7作品である。2年半に一冊という計算になる。それだけ時間をかければ、相当な資料を読み、良い作品を生み出せるだろうと思う。これには、訳がありそうだ。英語圏が広いということもあるかも知れない。
それと裏腹に、日本の作家は大変である。大よそ、3ヶ月に一冊は出版しないと生業とならないからだ。翻訳する事は出来るが、どうしても読者を日本人と設定しなければならないし、アメリカやイギリスのようにベストセラー作家を抱え込むような大きな出版社も無い。また、外国では、作家を役員として迎い入れ、仕事場や担当秘書、作家専用の自動車など、かなり手厚く待遇も良いと聞く。小さいが故にひとりの作者だけに賭けることが出来ない日本では、作家は、沢山の出版社と付き合っていかねばならない。

本日、日本文学の権威「芥川賞」と「直木賞」の贈呈式が都内でおこなわれる。7月24日の読売新聞朝刊の囲み記事に「僅差の直木賞1次投票の結果逆転」というタイトルが躍っていた。読んでみて、オヤ?っと思った。「選考は○☓△の3種の評価による1次投票で」とあるが、これは正しい。しかし「○☓のみにした決選投票では」と続くが、違うと思う。少なくとも、私が両賞を担当した時までは、「決選投票も○☓△」であった。この部分は、変わったと聞かないし、変わるワケもない。この夏の芥川賞に『送り火』の作者高橋弘希氏が、直木賞に『ファーストラブ』の島本理生氏が決まったことは、嬉しい!日本人作家として、これから大変だと思うのだが……。