春うらら| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 230

春うらら

私は、赤坂のオフィスに出るとき、高齢者用のシルバーパスで都バスを使う。厚生年金の受給者であるから、年に1000円というわけにはいかないが、安いので便利である。利用するバスは、海沿いの桜並木を通り、やはり桜の古木で覆われた細道に入る。ひどい花粉症の私にとっては、バスの中からの良い花見である。細道は、隅田川の支流の運河を渡る。佃島、月島である。この橋の袂に屋形船の船着き場があるようだ。提灯船が舫い、川面がキラキラと桜を映すその風景を眺めていると“春のうらら”という懐かしい節の唄を思い出してしまう。変貌していく都会にまだ江戸の情緒が残っている“うらら”の場所があった。

毎年、この季節になると花粉症の話を書いて恐縮だが、今年の花粉は、かなり凄い、そして酷いらしい。
「今年から花粉症になっちゃったよ!」という人もあれば「今年は、外に出られないね」という人もいる。
私は、花粉症のベテランで、“花粉症”という言葉がなかった頃からの“花粉症”患者だった。鼻水が止まらないという人が多いが、鼻が詰まり過呼吸状態になる。よく窒息死しなかったと思うことがある。尾籠(びろう)だが、昔の写真を見ると、この季節に撮った写真は、全て目脂(めやに)が写っている。目にもきたのだ。目を掻きむしりたい状態になんべんもなった。顔は、ゴワゴワになった。頭皮さえアレルギーになったようで、チクチクした。

先ほど「患者だった。」と書いた。今年の私の症状が軽くなったからだ。昨年もひとに言われるほど“花粉症”のアレルギー反応は出ていなかった。周りにいる花粉症の人たちに忖度して、さも酷い花粉症であるかにしゃべるのだが、実は、それほどでもない。もちろん1月に入ったころ、止まらないんじゃないかと思うほど、クシャミも出たし、目のチクチクも鼻詰まりも経験した。耳もやたらに痒くなり、しわがれ声にもなる。気管から入るのだろうか、内臓も反応する。が、今までに比べれば楽なのだ。以前だったら、この季節はマスクや眼鏡を離せなかったが、最近は、マスクをつけ忘れることも多くなった。7年前から一年中アレルギー予防の薬を呑んできたが、その効果だろうか。または、最近主治医が出してくれた新しい薬のおかげだろうか。煙草を紙巻きから電子煙草にしたせいなのか。たぶんだが、花粉アレルギー反応が衰えてきた年齢のせいのような気がする。あまり高齢者の花粉症って聞かないものね。
ハックション!