プライオリティ | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 480

プライオリティ

偉そうな題を書いてしまった!ルール破りの権化である私が「プライオィティ・ルール」と口に出してもいけないのに、書くなぞとんでもない傲慢さである。

今年、私は77歳になった。立派な爺である。言葉が悪いなら、いつでもお迎えが来てもおかしくない超後期高齢者だと言っていい。
私は、この歳になって地下鉄やバスに乗る時は、昔でいうシルバーシートに座るようにしている。なぜならば、シルバーシートに座る年齢的パスポートを持っている私が、一般の若いサラリーマンや徹夜で働いた後のまだシルバーになっていない人たち、買い物帰りのママの座る席を奪い取ってはいけないと思うからだ!私がいけなかったのだが、高齢者やケガをしている人、膝に抱っこ出来る子供を持つママやパパ、ペースメーカーを体内に付けている人たち、そして妊婦さん、ほとんどの方が目にしているイラストが貼られ、昔シルバーシートといって席の部分が明るいグレー色をしていたコーナーが、いつの間にか“優先席”と名前が変えられた。みんな合わせてシルバーといえばよかろうに、なぜ曖昧な言葉「優先」に変えたのだろうか?その脇に「プライオリティ・シート」と書かれている。外国の人にも判るようにとの配慮であろう。「優先」を小学館ポケット英和・和英辞典で引いても出てこない。仕方なく、必死にスペルを思い出しながら英和で「priority」の頁で探した。77歳にとって字が小さい。出てきた!「(時間が)先であること;もっと重要であること;優先(権);優先順位;優先事項。」と載っていた。

私は、地下鉄で電車を待つ時に、ホームに貼られた5人種のイラストのある場所に並ぶようにしている。最近である。その3列に並ぶ印として○が3つ書かれたシートに優先席を使用できる5人種のイラストが貼られていた。若い女性が1番の〇の場所に立ってスマホと格闘している。やたらに幅の狭い場所だった。女性に悪いと思い、私は、〇の無い方に並んでしまった。どうせプライオリティ・シートの場所だから、慌てて乗らなくていいと思いながら。その女性は、スマホを持ちながら私の腕をぶっ叩いて車両に乗った。自分が先だ!とでも言うように。もちろん、私が女性をかき分けて乗ろうとしたわけではない。先に並んでいたのは、彼女だ。私の腕をコズいた拍子に、彼女はスマホを落とした。
優先席は、2か所の空きがあった。私が座った対面に彼女が座っていた。睨んでいる。後は、若いひとばかりがスマホをいじっている。背の窓には、“この場所では携帯等の電源をおきりください”と書いてあるのに、だ。もちろん、“優先席”とは、5種の人たちが居ない時には、どなたでもどうぞ!ただし、それらの人が乗ってきたときは、席をお譲りくださいね!という意味で、先に座った者が優先権を持っているんだぞ、という意味ではないのは皆が承知していると思う。

しかし、残念なことに多くの若者がスマホの電源を切らずに使用し、赤に白十字のタグを付けたバッグを持つ人や腕や足にギプスを付けたり、白い杖を持ったり、またどう見ても立っていたら転んで大怪我をしそうな人には、席を譲るくらいの知恵は日本人は持っていたはずだが!日本人は消えたのか。