数十年に一度の| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 243

数十年に一度の

台風7号は、大雨雲を引っ張って日本海に向かった。が、台風のくせに力不足の為だろうか、自分はさっさと勝手に温帯低気圧に変わってしまい、大雨の雲を九州、四国、広島、岡山、大阪、京都、岐阜に置き去りにしてしまった。

テレビのニュースには、長崎の眼鏡橋が映り、京都の嵐山を流れる桂川の泥流が映し出され、何年か前に、やはりニュースで観た渡月橋水浸しの姿や京都のデートスポットでこの時期川床料理で有名な加茂川の河川敷が泥水で消えてしまった光景、また、岡山や広島の村や町の大洪水の姿が画面いっぱいになった。滑り台でも滑るように大木が泥と共に滑り落ちる光景をいったい何回見ただろうか。警察も自衛隊も民間の水上スクーターや漁船までが、大きな湖のようになってしまった陸地だった場所、田畑だった場所を走り回り、家の二階や屋根に避難して孤立してしまった人たちを助けている。ヘリもホバーリングして病院で孤立した人を釣り上げていた。町々や村々の橋は、流木に押し流され、川沿いの車道は、陥没して大きな穴が開く。こんな軽い物かと思う程に自家用車もトラックも波間に浮き沈みをしている。電車の線路の上は、河川敷のようで、ただひとり逃げて来た人が、軍艦のような駅舎に身を細めていた。死者は、時間を追う程に増え続け、行方不明者の数とシーソーのように数字が変わっている。しかし、倉敷や岡山あたりでは、その数さえも判明していないとキャスターは、苦しそうな声で訴えている。

太陽の黒点のせいなのか、地球の軸がずれたせいなのか、と他力のせいにする人もいるけれど、間違い無く我々人間のせいだろう。便利さを優先して、自然な環境を壊してしまう愚かな人間の欲望のせいに違いない。1日も2日も続く大雨や大洪水のニュースを観ていて、ふと気が付いた事があった。今回荒れに荒れた場所は、もみじ饅頭で知られている厳島神社がある宮島だったり、古い町を残した倉敷だったり、昔からの観光地嵐山や四条瓦町だったり、最近外人観光客がどっと増えた道頓堀だったり、以前から外人観光客が鵜飼を楽しんでいた長良川だったりする。観光立国になろうと一生懸命に国民が努力した結果、最近では外国からの観光客が著しく増えた。みなが日本を褒めてくれるし、お金も落としてくれる。
しかし、今回の西日本全域を水浸しにしたニュースでは、どの局も同じような被害に遭った日本人にマイクを向けるだけで、同じような風景を映し出すだけで、せっかく楽しみにして日本に遊びに来てくれた外人の観光客の様子など、どの局も流してはいなかった。ニュースでは耳にタコが出来る程に聞かされた「数十年に一度の」のフレーズだが、来年も、再来年も、また次の年も、聞かされるのじゃないかな?だって、人間の欲に底が無いから!