秋深し | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 211

秋深し

私は、四季の中で一番秋が忙しくなる。法学を習いながら、結局文学の道を歩むような生活をしてきたからかも知れない。本を読むことは、このブログのタイトルどおり閉門即是深山だ。季節に関係なく、いつでもドアを閉めれば静かな深い山の中と同じだから、どこでも、いつでも本は読める。

しかし、文学=秋となったのは、いつごろからだろう!きっと、読書の秋と誰かが名付けたのがきっかけになったような気がする。よって各地で催す文学展や文化講演会などは、春や夏よりも秋に集中する。私が名誉館長を務める高松市菊池寛記念館や高松市が主催する文学展、講演会も毎年秋になることが多い。10年近く前までは、高松市の文学展は、初夏に行なわれていたのだが、高松瀬戸内美術展にぶつかるようになってからは、9月頃開催されるようになった。そのため、私の仕事が秋に集中することになった。

この11月の今年最後の連休に高松での文化講演会が催された。毎年、講演者である作家を探し、ご依頼するのが私の役目である。東京副都知事時代の猪瀬直樹氏や故・井上ひさし氏、大沢在昌氏、伊集院静氏や林真理子氏、浅田次郎氏などの直木賞作家や新井満氏などの芥川賞作家を高松まで行って頂くよう口説くのが私の役目である。講演の内容は、言及しないでお願いする。私の祖父・菊池寛の郷里が高松で、現在顕彰会や記念館があるから、祖父の創設した芥川賞・直木賞、菊池寛賞を受賞された作家ならば市民は納得してくれる。来年、菊池寛生誕130年、歿後70年の年である。よって、来年の催しは、少しイベントらしくしなければならない。今年だって、無理な言い方をすればプレ年である。そこで、いつもと違った構成をしてみた。菊池寛の親友たち、直木三十五氏及び吉川英治氏のご遺族の方と私の座談会である。

直木氏は甥御さんである植村鞆音氏が、吉川氏はご子息の吉川英明氏が出席下さった。英明氏の名付け親は、私の祖父である。それぞれ、子、孫、甥の立場で、遺族しか知らない話を披露する訳である。この組み合わせは、以前大田原市の「文学サロン」と呼ばれる講演会で座談を行ったメンバーである。よくは知られていないことだが、誌上で対談や座談会を創ったのは祖父らしい。大田原市で行なった3人の座談会は、かなり好評だったと聞き、また一緒にやろうね!と言った。それが、再び実現したのである。現役時代、鞆音さんはテレビ東京で勤務されていたし、英明さんはNHKの放送記者であった。マスコミでも放送と私のような出版と若干違う部分がある。放送は、時間的枠を考えるから台本を必要とする。出版は、あまり制約がないから台本を必要としない。ぶっつけ本番。その方が、聴衆が喜ぶと思っている。