祭り| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 199

祭り

「祭り」にもいろいろある。夏祭り、秋の祭り、クリスマス。芥川龍之介賞・直木三十五賞の受賞パーティーもお祭りに入れてもいいかも知れない。
8月の最後の金曜日に第百五十七回芥川賞・直木賞の贈呈式が帝国ホテルの孔雀の間で催された。両賞とも年に2回ある。もちろん「受賞作なし」という時があるかも知れないが、2月、8月に贈呈式を行う。これも一種の祭りだと思う。1月と7月に選考会があり、記者発表するが、この時は、候補者、出版関係者を含めてハラハラ、ドキドキと神妙な時期だから決してお祭り気分にはなれない。発表され、ひと月が経ち、やっと「あぁ、授賞したのだなぁ!」と思ったころに贈呈式がおこなわれるから、受賞者も招待客も「お祭り騒ぎ」となる。
受賞者の人数や受賞者の知名度、夏か冬かで招待客のいらしてくれる人数も異なる。夏、8月の贈呈式の時は裏方は心配でたまらない。平均して千人のお客様で溢れる会場で、せっかくのお祝い事なのに、少なかったらどうしよう!という心配だ。夏は、避暑に行ったり、旅に出たりとお客様も忙しいから、どうしても少なくなりやすいのだ。
今回の受賞者は、芥川賞が『影裏』を書かれた沼田真佑氏と直木賞がベテラン作家で『月の満ち欠け』の著者佐藤正午氏のお二人だった。芥川賞の沼田真佑氏は、文学界新人賞を授賞した作品が芥川賞でも受賞作となった。作家になった1本目が芥川賞に輝いたわけだ。
両賞の祝辞は、賞の選考委員が務める。今回の芥川賞は、山田詠美さんが祝辞を述べた。直木賞の佐藤正午氏は、受賞式を欠席することで、その噂は、出版界で有名である。結局、この日も「急な体調不良で欠席」という言い訳が届いた。直木賞の祝辞は、伊集院静さんだった。しばらく話した後「本人がいないから、このへんでやめておきましょう!」と、マイクの前から離れた。授賞したくないのなら、はじめから断るべきだと私は思った。「潔くない!」授賞を待つ作家は沢山いるのだから!

8月最後の日曜日にもうひとつお祭りがあった。じつにローカルである。大田区久が原にあるライラック商店街のお祭りだった。それでも午後2時から車を通行止めにして、縁日の出店が出る。金魚すくい、おばけ屋敷、やきそば屋。我々のバンドが出ることになった。
「あくまでも久が原のフラダンス教室のライブイベントの前座だからね。俺たちのバンドなんか通り過ぎるだけで、聞いちゃあくれないからね!野外で練習するつもりでね!」この町会の主も務めるバンドのベースマンが、何べんも同じことを言っていたが、な、な、なんと100名、いや200名くらいの聴衆がバンドを何重にも囲み、老若男女のお客が、手をたたき、足を鳴らして、1時間半23曲に聴き惚れてくれた!